シネフィルはつかれる

観た映画なるべく書く映画通信。年間watch数300本弱。

ドッグマン

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主演のマルチェロ・フォンテがカンヌ主演男優賞受賞したドッグマン。評判が高く気になっていた。観た夜の夢に出てきたほど濃厚。

 

あらすじ

(Filmarks)イタリアのさびれた海辺の町。娘と犬をこよなく愛する温厚で小心者のマルチェロは、質素ながらも「ドッグマン」という犬のトリミングサロンを経営し、気のおけない仲間との食事やサッカーを楽しむ日々を送っている。だが一方で、その穏やかな生活をおびやかす暴力的な友人シモーネに利用され、従属的な関係から抜け出せずにいた。ある日、シモーネから持ち掛けられた、儲け話を断り切れず片棒を担ぐ羽目になったマルチェロは、その代償として仲間たちの信用とサロンの顧客を失ってしまう。娘とも自由に会えなくなったマルチェロは、元の平穏だった自分の日常を取り戻すためにある行動に出るが――。

 

俳優陣が全員個性豊かで全員本当にそういう人にしか見えないほど現実的。やはり主演男優賞受賞のマルチェロ・フォンテ、あの佇まい、姿勢、声、ギョロ目と表情全てのこなしが完璧。この役をやるために生まれてきたみたいな存在で、この作品とこの俳優が出会った奇跡を喜びたい。また、やはりジャイアンとしてのシモーネもすごい。DQNアディダスのジャージを着るのは世界共通か。アディダスから訴えられてもおかしくないレベルの着こなし。また、犬映画でもあり、多種多様な犬たちが出てくるので犬好きにはたまらないのでは (悪い意味で)。 

 

本作一番のポイントはロケーションだろう。あの凄まじい村。寂れた海辺の田舎町で、一応レストランや遊技場、クラブとかあるんだけど、全てが朽ちはじめている感じ。通りが広く、人が少なく、栄えていた時代もあったが、見放されて以来何も手をつけていない感じ。日本の、昭和で時が止まった温泉街などに行ったときのあの絶望感の中で暮らしている。コッポラ村 (vilaggio coppola) という村らしいが、グーグル検索してみても、見事に映画通りの廃れっぷり。60年代後半に観光地として開発されたらしいが今や全体が廃墟。古い建物や街並みが美点となっているローマとかミラノは当たり前だけどしっかりお金をかけてるから綺麗に保たれているのだと痛感。

https://www.google.com/search?q=villaggio+coppola&rlz=1C5CHFA_enJP811JP811&sxsrf=ALeKk01X24MLn0FlAsHcX8s6d02C8E5nhg:1584450329859&source=lnms&tbm=isch&sa=X&ved=2ahUKEwjg-sy4yaHoAhXQfXAKHaFNBxoQ_AUoAnoECBYQBA&biw=1366&bih=666

 

東京みたいな大都市に住んでいると分からない感覚だが、小さな町に暮らしていると、外に出たら知り合いに会うのが当たり前、もしくは住人全員知り合いみたいなことがある。そうすると無意識に行動が制限される。私も小さい町に住んでいた頃、ダウンタウンに出かけていけばよく知り合いに出くわしたものだ。東京では地元の駅ですら知り合いを見かけることがない。どこに行っても誰かがいるのは気が重い。その閉塞感は計り知れない。

 

だからこんな村で、シモーネの搾取から「逃げられるだろう」「断ればいい」といった論は通用しない。マルチェロやその周りの人々に逃げ場などない。恐らく幼なじみであろうマルチェロとシモーネの関係性が、今更対等になったりしないし一生抜け出せない。ああいう人間関係に陥ってない自分はただただ運がいい。カップルや親子でもどちらかが力関係を示して搾取するような関係がたくさんある。サービス業などでも「ゴネ得」という言葉があるように、ゴネたもん勝ちなところがあって、そういうゴネ客は自分がヤクザの手法を用いて相手を消耗させ、得をしようとしている認識があるのか問いたい。

 

ラストのシークエンスに至るまで完璧な映画だと思った。恐らく2020年見た映画ベスト10に入るだろう。