シネフィルはつかれる

観た映画なるべく書く映画通信。年間watch数300本弱。

ポエトリー アグネスの詩

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あらすじ(映画.com)

釜山で働く娘に代わり中学生の孫息子ジョンウクを育てる66歳のミジャは、ふとしたきっかけで詩作教室に通い始めるが、その矢先に自分がアルツハイマー認知症であることが発覚する。さらに、少し前に起こった女子中学生アグネスの自殺事件にジョンウクがかかわっていたことを知り、ショックを受けたミジャは、アグネスの足跡をたどっていくが……。

 

今最悪の話題の「n番部屋事件」を思い起こさせるような最悪な事件がテーマとなっている。加害側である少年グループとその父親たちは、事を大きくしないことに必死で、示談と保身しか考えていない。一方ミジャは、保身よりも孫を叱ることよりもまず、被害少女アグネスに寄り添う。この映画の中で唯一アグネスを理解しようと能動的に動く人物。アグネスが何を考え、何を憂いて死んだのか、思想や行動をなぞる行動は、アグネスに対するリスペクト溢れる弔いだと思う。その行為が詩に繋がり、弔いの詩となった。葬式や法事などの儀式は確かに形式的に死者を弔いはするけど、本当に大切なのは死者を思い続けることだ。多くの場合それは難しい。先月祖母を亡くしたが、祖母の人生をなぞることや、祖母との思い出に浸ることで思い続けているのだが、永遠には続かない。

ミジャは可愛らしく健気で、何事にも受け身のような女性である。そのミジャが恐らく人生で初めて自分で大きな決断をする。60代にしてジブリ映画のヒロインみたいな感がある。

詩を書くのは難しい。適当な言葉を並べるだけなら誰でもできるけど、そういうのって書いた後読み返すと全くダメなことがわかる。映画の中で詩の先生が言うように、物事を見つめ気持ちをトレースする丁寧な作業が必要である。ミジャはりんごや木から落ちたあんずにヒントを得ようとノートに書き留める。私も詩人なので分かるが、例えば今日は帰り道、遠くの方に見えるビルの金色の光が綺麗で、目をぼやけさせると金色が広がってこの世のものとは思えないほどの光景だった。また、コロナウイルスによる自粛や規制でやりたいことができない、人にも会えない非常にもどかしい思いを詩に昇華できる。

途中雨が降り、ノートが雨粒に濡れるシーンがあるが、その描写も含めて全体的にシャワーのように気持ちの良い映画だった。